SWAN SONG 感想

mikansuzi2010-03-22

ちょっと面白いエロゲーがやりたいなと思って、廉価版をいまさら購入。よかった。文句なしに名作だと思う。
極限状態で生きていく不安や恐怖と、ジワジワと狂気に陥っていきどうしようもない悲惨な結末を迎えるまでが、レベルの高い文章で丁寧につづられていた。
キャラクターたちに個別に目をやると、鍬形の狂気に陥っていく様や柚香の空虚さ、希美の陰惨さなんかはおぞましいと感じつつも共感してしまうところもあった。逆に司の意志の強さや田能村の倫理性、雲雀のまっすぐさなんかは良いなあと思いつつも自分はここまでできないだろうな、などと鍬形のように思っていた。
罪悪感と許しというテーマはCARNIVALに引き続いて今作でも健在で、やっぱり許しは得られないというところで今作でも乗り越えることはなかった。
今作では美しいもの(幼少のころの司のピアノ、司や司の父親の中にあった理想の音楽、雪や氷などの自然、生きること自体など)は人間にとってとても苦しいものとされていて、司はそれに果敢に立ち向かう。だけども柚香や鍬形は自分自身の罪悪感にとらわれていて、立ち向かうという発想が持てない。司たちは彼らの凶行を止めようとするが、彼らが自分で自分を許さない限りそれは叶わず、司たちの意思や理性や誠実さは彼らを救うことができない。
罪悪感にとらわれた人たちはそれから逃れようとして、感じることを放棄したり、進んで破滅的な行動に走ったりするようになる。
日常ではそこまで狂気は発揮されず埋もれてしまったかもしれない(例えば鍬形は普通に生活している限り人を殺すことなんてなかっただろうと思われる。まあ柚香は別だけど)が、災害と言う事態に直面してそれが表に噴出してくる。
僕自身もこういう感じ方(何かに対する罪悪感や後ろめたさからくる感じることの放棄や破滅的な願望)が自分の中にあると感じているので、こういうシチュエーションはすごく面白かった。
ただ素晴らしい人間は生まれつき素晴らしく、救われない人間はどうやったって救われないっていうのは、現実的で厳しくもあるが逆に安易な感じも最近している。作中、司たちは懸命にあらがうのだけれど、そうでない側は自分自身と向き合って現実とまっとうに戦うことを、いろんな方法で放棄することしかできない。彼らは自分自身の醜さから逃げ続けてはいるが、それでも自殺はしない(柚香はここでも別)。それは司の父親に関して作中言われているけども、そこを生きることの尊さみたいに司に言われたら、柚香でなくともたまったものじゃないだろう。醜さから逃げていても、死というカードを残すことで生きてきた彼らに、そのカードを使用不可能にすることは、カードを捨てさせるということと同じ意味で、醜さと向き合うことを強要されるからだ。自分自身を許す方法をもたない彼らにとって、それは耐えがたいものであるために、決して理解し合うことはできない。
結局この問題は、自分自身をどう許すかということにすべてかかっていて、作者はそれを書けない。それをやると安易になってしまうからだけど、だからと言ってそれをやらないのも安易なことにはならないか。
醜さを認めれば破滅的になり、醜さを徹底的に見ないようにすれば無感動になる。醜い自分を受け入れる、それができないということはプライドなのかもしれない。トゥルーエンドで柚香が顔のない少女(まあおそらく幼いころの柚香自身)と対話する場面があるが、その少女は高飛車に書かれていた。まあ、凡人が過ぎたプライドを持つことが罪悪感の源なのかなと卑屈なことを考えてみたり。ちょっと受け入れるだけのことがこうも難しいなんて。でもそれだけのことならば何とかして書くことができるんじゃないかとも思うわけで。
ところで柚香というキャラクターは、こうしてみると実にいい悪女だなーと思う。司を堕落させて道連れにしようとしたり、自分と似たような境遇ながら自分よりも愚かな鍬形を心の隙間をついて操ってみようとしたり、司が必死に生きる素晴らしさを伝えても自殺しようとしたり。彼女は本人の自覚通りまぎれもなく醜いんだけど、そんな彼女と司が一緒に堕落するというのもルートとしてあったら良かったかなーと思ったり。
まあ、だいたい以上のようなことがSWAN SONGをやって思ったことなんだけど、ここで全く登場していない人物がいる。それはもちろんあろえなんだけど、正直僕にはこの物語であろえが一体何だったのか良く分からなかった。あろえ知的障害者として、常にわけのわからない世界(雲雀解釈でナカマのない世界)に奮闘しながら生きているんだけど、それは司や柚香も同じで、そのことに気づかされる場面は感動的ではある。その闘いの結果として、キリスト像が復元されるシーンは確かに良かった。それは僕にはピアノが弾けず、長く生きられもしない司の代理に見えたのだけど、でもそれだけならそこまで必要なキャラじゃなかったんじゃないかと思う。イマイチあろえのエピソードが他に比べて弱い気がしてならない。自閉症あろえは内面描写ができないことが原因ではないかと思う。生きる意志すら希薄な彼女の中から感動を引きだしたこと自体は素晴らしいけど、ちょっと他のレベルが高いだけに見劣りしているかもしれない。
この次の作品であるキラ☆キラは、今作に比べるとテーマが明確でない分一般的なエロゲーのスタイルに則っていて、とっつきやすくはある。もし瀬戸口(唐辺)作品をやったことがない人がいるなら、キラ☆キラのほうもお勧めかも。