犬憑きさん 最終話

すごく面白かった。
最終話を読み終えたばかりだけど、マークのこと、アユムのこと、いろいろ考えさせられる内容だったと思う。
現実の友達を得てマークを失った真琴と、野分という偽りの対象を具現化したことで、かえって真実の憑き物を身体の底に留めてしまった歩が対照的だったと感じた。
とはいっても野分も憑き物に違いはなくて、じゃあ何だったのかというと殺してしまったハムスターとつながりがあるんだろうね。まあハムスターを殺してしまった罪悪感だけじゃなく、両親や典子に迷惑をかけているという不安や劣等感もあったんだろうけど。
つまり野分は歩の一族に代々受け継がれてきた憑き物ではなくて、歩が自分の心から生み出した幻で、それが祖母の言葉によって修飾されて代々継がれてきた犬の憑き物ということにされてしまったんじゃないだろうか。
多分歩はそれを分かっててやってんだなあと思ってちょっとぞっとした。
代々の憑き物でない野分はマークと同じ様に心が変化すれば消えてしまうものとも思えるけど、そうして考えたとき、真琴と違ってそのことに意識的な歩はそうだからこそ変わることができず、ずっとなにかを眠らせ続けていくんだろうと思える。
アユムは野分を体外に出したいという欲求なので、典子は多重人格だと言っていたのは間違いで、人からの見え方が違っただけで歩なんだろうと思う。まあそもそもアユムという呼び名も典子がつけただけだしね。歩の中に残っている真実の憑き物は歩にしか分からない深い謎に包まれていて、そこに歩の孤独や真琴との対比を強く感じる。
第1話を読み始めたときはガラッと方向性が変わったと感じたけど、読了後の余韻は前作「プシュケ」に近い気がして同じような震えがあった。それはたぶん最後に明かされたこのカタルシスから来るんだろうな。
前作は分かってしまった主人公がたった一人取り残されてしまい救いが無かったけど、今作は分かってしまった真琴と歩が友人であり、これからの未来もある終わり方でよかった。
お気に入りのキャラは真琴。冷静沈着で徹底的に理詰めで考える癖に、マークなんていう空想上の友達を作ってしまうところがいい。クールキャラがチラッと心を感じさせるのはくるものがあるね。ああやって徐々に心が成長していくパターンはありがちだけどやっぱり好き。
嫌いなキャラはいない。あれだけ陰惨な話なのになぜかどのキャラも理解できるような気がする。最近なにも集中できないのにかなりのめり込んで読めたのはそのせいだったのかも。
唐辺葉介の新作が今から楽しみ。